心を切りとるは身を知る雨
 話を弾ませる朝晴が、こちらへと顔を向ける。すっかり話し込んでしまって、とハンチング帽を丸めて謝る父親が、へこへこと頭を下げてくる。

「息子がずいぶん親切にしてもらったみたいで」
「いえいえ、あたりまえのことをしただけですから」
「あいつ、祭りから帰ってきてから、好きなゲームそっちのけで、切り絵ばっかりやってるんですよ」

 少々、あきれ顔だが、父親はうれしそうにそう言う。

「どんな作品をつくってるんですか?」
「風鈴です。来年はもっとすごいのを自作するんだって」
「そうでしたか。有村さんならできそうです。お母さんを喜ばせたくて仕方ないんですね」
「お恥ずかしい話、うちのばあさんが妻の風鈴をどこかへやってしまったみたいで、息子は気をつかってるんだと思います」

 有村くんが切り雨を訪ねてきたいきさつを知っているのかいないのか、父親は情けなさそうに眉を下げる。

 父親として、ふがいないとでも思ってるんだろうか。息子の気づかいに気づく優しい父親だからこそ、有村くんのような思いやりのある子に育ったように思えるけれど。

「お母さん想いの方だと思います」
「それはもう本当に。妻もお礼を言いたいと言っていたんですが、何分、身体の具合が悪くて。今日も一緒に来られたらよかったんですが、できなくてすみません」
「お気になさらず」
「いや、本当に。妻は上手に絵を描くので、昔は美術館めぐりが好きでしてね。息子が切り雨さんの作品はめちゃくちゃすごいと騒ぐものですから、妻も見たいそうなんです。そこで、今日はお礼とは別に、ひとつ見たい作品があって来たんですよ」
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