心を切りとるは身を知る雨
 朝晴とともに無言で見守っていると、程なくして、父親が顔をあげる。

「これ、いただけますか」
「奥さまへのプレゼントですか?」
「ええ。あいつもなかなか泣けないんじゃないかって思うんですよ。仕事も家族も思うようにならなくて。これを見たら、少しは元気になってくれるような気がするんですよ」
「私の作品が少しでもお役に立てるのでしたら幸いです」

 有村くんの父親は不器用そうに口もとをゆるめてほほえむ。

 きっと、絵画や芸術品に興味などないのだろう。身支度だってあまり気をつかわない人かもしれない。だけれど、妻のためにとおしゃれをしてやってきた。その優しさはどんなにか妻の励みになっているだろう。

 結婚するなら、パートナーを思いやれる人がいい。そう思って、文彦との結婚を決めたことをふと思い出す。

 どうして文彦は、簡単に婚約者を裏切れたのだろう。自分は優しさを向けるに値する恋人ではなかったのだろうか、と未央は過去の恋に蓋をするように、七下の雨をおさめたかぶせ箱を閉じる。

 また一つ、未央は悲しみを手放す。悲しみは誰かの喜びになり、そして誰かの悲しみを癒すのだろうと信じている。

「大切にしますよ」

 有村くんの父親はそっと紙袋を受け取ると、ハッとして、「いけない。トマト、取りに行かなきゃ」と、あわただしく帰っていく。
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