心を切りとるは身を知る雨
「お気をつけて」と大きな背中を見送ると、

「切り雨さんの作品には必ず、雨が描かれてますね。さっきの話が本当なら、全部、泣いてるんですよね」

 と、七下の雨が外された壁を眺めて、朝晴がそう言う。

「物悲しいと思われます?」
「いや、全然。いやしの雨っていうのかな。穏やかな感じがするのは、八坂さんのお人柄かな」
「どのように受け取ってもらってもかまわないんですけど、井沢さんがそう思われるならうれしいです」
「俺、本当のことしか言わないんですよ」
「そうなんですね」

 くすりと笑うと、彼も目を細めて笑む。

「次は何を飾るんですか?」
「一番目立つ場所ですから、なるべく人目を引く作品を」
「どんな作品を飾るのか興味あります。また来るのが楽しみだな」
「いつでもいらっしゃってくださいね。妹さんも」
「ありがとう。……もう四時過ぎか。有村くんのお父さんがうちにも寄ってくれるって言ってたし、そろそろ帰ります」
「はい。雨が降りそうだから、お早めに」

 そう言ったとき、窓の方からパタパタと雨音が聞こえてくる。

「降り出しましたね」

 朝晴が引き戸を開けると、商店街の通りがあっという間に濡れていく。

「傘ありますか?」
「残念ながら」
「この様子だと、なかなか降りやみませんよ」

 曇天の空を見上げていた朝晴が、後ろ頭をかき、こちらへ目を移す。

「やまなくてもいいかもしれないな。八坂さんとしばらくこうして一緒にいられるなら」

 



【第一話 七下の雨 完】
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