心を切りとるは身を知る雨



 フルーツやの前を通ると、きれいな網目模様の大きなメロンに目がとまった。しぐれが購入したというメロンだろう。朝晴のメロン好きは初耳だったが、そうでなくても買いたくなるような立派なメロンだ。

「おや、いらっしゃい。今日は休みかい?」

 奥から出てきたフルーツやのおかみさんが、にこやかに話かけてくる。

 未央の母親は笑顔でいても、どこか気の抜けない雰囲気を持っているが、おそらく彼女と同い年ぐらいであろうおかみさんには、安心できる柔和さがある。

「定休日ですよ。お夕飯の買い出しに来たんですけど、メロン、おいしそうですね」
「ああ、切り雨さんとこは水曜定休だったね。すぐに食べるなら、切り分けてあげようか?」
「いいんですか? ちょうど一個は多いかなぁって思ってたんです」
「全然いいよ。ちょっと待っててね」

 おかみさんはいくつかあるメロンの中から一つ選び取ると、店の奥へと戻っていく。

 待っている間に、種類豊富なぶどうを眺めていると、「八坂さんじゃないですか」と、後ろから声をかけられた。振り返ると、真っ白なティーシャツを着た朝晴が、自転車をかたわらに置いて立っていた。

「こんにちは。今日はお休みですか?」
「有休です。毎年、夏休みにまとめて取ってるんですよ。八坂さんは買い物ですか?」
「いま、メロンをお願いしたところなんです。おいしいですよね、ここのメロン」
「ついこの間、食べたばかりですよ。あっ、そうそう、確かその日に、妹が切り雨さんへおじゃましたみたいで」

 爽やかな笑顔のまま、朝晴は律儀にあたまをさげる。
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