心を切りとるは身を知る雨
 ときどき、何気ない会話の中で距離を縮めてこようとする彼には戸惑うが、イベントを一緒に乗り越えた仲間としての立場をわきまえた態度には好感がある。

「明るい方ですね」
「落ち着きがないだけですよ」
「おや、井沢先生もいらっしゃって」

 苦笑いする朝晴に、メロンを小分けしたパックを持ったおかみさんが声をかける。

「先日は妹がどうも」
「元気そうで安心したよ」
「体調がいいときは商店街に来るのが楽しみみたいなので、またよろしくお願いします」
「困ったことがあったら、遠慮なくね」

 世間話しながらメロンを渡してくるおかみさんに未央は代金を支払うと、朝晴とともにフルーツやをあとにする。

「フルーツやさん、優しいですね」
「商店街の人はみんな親切ですよ。八坂さんも」
「私は何も」

 恐縮すると、朝晴は首をふる。

「八坂さんが特別なことじゃないと思ってやってることは、実は特別なことなんですよ。妹の世間話にも付き合ってくれたみたいですね」
「楽しい時間でしたよ」
「話しすぎたかもって言ってましたよ。余計な話までしたんじゃないですか?」
「いいえ、全然」

 未央は足を止めると、ふしぎそうにこちらを見る朝晴を見上げる。

「先にどうぞ。どこかへ行かれる予定でしたよね」

 自転車の朝晴に歩かせて申し訳ない。そう思って言うと、彼は「ああ」とつぶやいて、自転車を指差す。

「ブレーキの調子が良くなくて、そこのバイク屋に行くところだったんですよ」

 バイク屋は切り雨の二軒手前にある。そこのことだろう。

「じゃあ、歩いてきたんですか?」
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