心を切りとるは身を知る雨
「若い人に人気のあるタイプだとか」

 しげしげとバイクを眺める朝晴にそう言う。

「数年前に爆発的な人気が出た機種ですよ。これは、30年以上前に発売されたヴィンテージバイクを再現したやつですね。ネオクラシックバイクって言いますが、いまだに人気があります」
「詳しいんですね」
「あっ、いや、これと同じ型に乗ってたやつを知ってるだけですよ。何度かここを通ってたのに、全然気づかなかったな」

 後頭部をせわしなくなでる彼のあたまの中には今、さまざまな思いがめぐってるように見える。

 同じ型のバイクに乗っていたのは、しぐれの別れた彼氏だろう。だから、彼女はこのバイクをデザインした切り絵にこだわっている。なぜこだわるのか、その理由をきっと彼は知っている。それなのに、切り雨へ行く途中にあるバイク屋に展示されているのを見過ごしていた自分への困惑。そんなものが彼の表情に透けて見える。

「商店街によく来られるようになったのは、ここ最近でしたよね」

 だから、しぐれの彼氏が乗っていたバイクと同じものとはすぐに気づけなかったんじゃないだろうか。

「しぐれがそう言ってましたか?」

 朝晴は少し驚いた表情をした。

「東京にいつか戻れるよう、休みの日には東京へ行ってご準備されてるとか」
「……しぐれ、そんな話まで」

 一瞬、彼は絶句したが、観念したように吐き出す。

「ここへ引っ越してきたころは、たしかにそんな気持ちでいましたね」
「三年前でしたよね、こちらへ来られたのは」
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