心を切りとるは身を知る雨
「しぐれ、車椅子で驚いたでしょう」

 うなずいた彼は、あっさりとそう切り出した。

「引っ越してこられたのは、お身体のことがあったから?」
「そうです。四年ほど前にバイク事故に遭ってしまって」
「お付き合いしてた方が、ライダーだったそうですね」
「ほんとうにいろいろ話したんですね、しぐれは」

 あきれと感心をないまぜにしたような表情で彼は続ける。

「しぐれは高校時代、レストランでアルバイトしてたんですよ。そこで出会った青年と短大に進んでから交際が始まったようです。なかなか真面目な青年で、俺も安心してたんですけどね、バイクの旅行はやめるように忠告するべきだったと、今でも後悔してるんですよ」
「それじゃあ、旅行中のバイク事故で?」
「単独事故で青年は大けがをしましたが、しぐれはさいわいなことに打撲ですみました」

 面食らって、未央は尋ねる。

「打撲ですか?」
「ええ、しぐれのけがは大したことありませんでした。ですが、青年のけがを見たショックからか、一時的にまったく動けなくなってしまったんです。2週間ほどでようやく身体が起きるようにはなったものの、足だけはどうしても動かなくて、それ以来、歩けなくなったんですよ」
「じゃあ……」

 当時を思い出したのか、疲れた表情で彼はうなずく。

「いろんな病院を回りましたが、どこへ行っても異常は見つかりませんでした。医師の話では、心因性の運動障害だろうと」
「そうだったんですね……」
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