心を切りとるは身を知る雨
「自然豊かな場所でのんびり過ごせば少しは良くなるかと思ってここへ越してきたんです。しぐれはおばあちゃんっ子で、祖母も快諾してくれたので」
「それで、井沢さんもご一緒に?」
「父が仕事の関係でアメリカに行ってまして。母も帯同してるんですよ。両親が日本へ帰ってくるまでは俺が面倒みようと思って、思い切って転職しました」

 イベントコーディネーターを辞め、清倉へ引っ越してきた理由を語る彼は、後悔のない清々しい顔をしているが、前職への未練がないとは、未央はどうしても思えない。

「ご両親はいつ日本へ戻られるご予定なんですか?」
「5年と聞いているので、来年ですね」
「来年には井沢さんは東京へ?」
「あ、いやいや、今は違いますよ。しぐれも東京へ戻る気はないでしょうし、俺も清倉の生活が気に入っているので、両親の都合に関係なく、引っ越すつもりはありません。八坂さんはどうなんですか?」
「私もずっと清倉で暮らすつもりでいます」
「そうですか。それはよかった」

 朝晴は心底ほっとしたような笑みを浮かべる。しぐれには同世代の友人がいないと心配していたから、安心したのかもしれない。

「大変な状況ですけれど、しぐれさん、助かってよかったですね。実は私、友人を交通事故で亡くしているんです。ほんとうに、助かってよかったです」
「そうでしたか……」

 言葉少なにあいづちを打つ朝晴の目には、同情のようなものが浮かんでいる。
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