心を切りとるは身を知る雨
 生と死の境目には大きな隔たりがある。大切な人が傷つくという、同じような経験をした者同士とはいえ、その重さは違うのだろう。あの人の死は、やはり朝晴には理解しがたい世界で起きたことなのだと実感してしまう。

「ごめんなさい。私の個人的な話をしてしまって。それじゃあ、そろそろ」

 逃げるようにあたまを下げ、この場を離れようとした。

「あっ、八坂さん」

 あわてて、彼が呼び止める。

「何か?」
「自転車を預けてくるので、一緒にカフェへ行きませんか?」
「カフェですか?」
「駅の方に新しいカフェができたんですよ。しぐれが気兼ねなく行けるのか、見てこようと思いまして」

 いつもそうやって、しぐれのために下調べをしているのだろうか。力になりたいとは思うが、必要以上に朝晴と過ごすのも違う気がして、未央は手もとを見下ろす。

「メロンを買ったので、今日は……」
「じゃあ、切り雨さんにおじゃましてもかまいませんか?」

 それでは、カフェへ誘ってきた理由がわからなくなる。まだ一緒にいたいのだと、はっきり言われた方がすっきりするだろうとは思ったが、彼にそんな気があってもなくても、未央は戸惑わずにはいられない。

「定休日ですので」

 言葉を選びながらそっとお断りすると、朝晴はあいまいな笑みを浮かべた。
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