心を切りとるは身を知る雨



 玄関ドアの開く音に気づいて、リビングから顔を出したしぐれは、靴を脱ぐ兄の朝晴に声をかけた。

「おかえりー。自転車直ったの?」
「ああ。部品変えてもらって、すぐに直ったよ。次に調子悪くなったら、買い替えだなぁ」
「ずいぶん古い自転車だったからねー」

 自転車は清倉の祖母の家にもともとあったものだ。生前、祖父が乗っていたものらしい。商店街へちょっとした用事で出かけるときの兄は、小回りがきくからと重宝していた。

「コーヒー、飲むか?」

 リビングへ入ってきた兄は、しゃれた紙袋をテーブルに乗せた。

「わあ。もしかして、駅前にできたカフェの?」

 オープン前から興味があって、兄に話したのを覚えてくれていたのだろう。

 清倉は自然に囲まれた町だが、駅周辺には観光客向けのおしゃれな店舗が集まっている。若い子が遊びに行くのは、もっぱら、商店街ではなく、駅の方だろう。

「そう、場違いなぐらい若い子ばっかりで、さすがの俺も恥ずかしかったよ」

 苦々しげに笑い、兄は向かいに座る。

「そんなに若い子ばっかりだったの?」
「夏休みだからかな、高校生とか大学生みたいな子ばっかりだったな」
「へえ、そうなんだ」
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