心を切りとるは身を知る雨
 しぐれは興味津々な目で見つめてくる。何か誤解してるみたいだ。

「あ、いいえ。名残の夕立はサイズが大きいですから、井沢さんに迎えに来てもらった方がいいと思ったんですけど」
「ひざに乗りますよね?」

 すぐさま彼女はそう言う。

 新しい自分になるための第一歩として購入する切り絵だ。朝晴の助けを借りたくないのかもしれない。

「それじゃあ、途中まで一緒に行きますね」
「切り雨さんが?」
「両親に出したい手紙があるんです。いつも、図書館前のポストから出すので、そこまで」
「ご両親にお手紙?」

 メールで連絡取れるのに、と彼女はふしぎそうだ。

「毎月、連絡するように言われてるんですよ。せっかくだから、切り絵のポストカードを送ってるんです」
「へえー、ご両親と仲良いんですね」

 両親の反対を押し切って清倉へ引っ越してきた手前、毎月連絡するようにとの彼らの希望は最低限聞こうと思っているだけだったが、しぐれは純粋に家族仲が良いと思ったようだ。

「元気でいるのがわかれば、安心するんですよ、きっと」
「そっか。私も親に出そうかな」

 ぽつりとつぶやくしぐれをほほえましく見つめながら、

「すぐにご準備しますね」

 と未央は言うと、名残の夕立へ手を伸ばした。
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