心を切りとるは身を知る雨
 風呂敷に包んだ大きな箱を、ひざから滑り落ちないようにストラップを通して背もたれに結びつけると、しぐれはうれしそうに何度も礼を言った。

 意気揚々と先を進むしぐれの後ろをついていく。これから、彼女に明るい未来が待っているような気がして、未央の心も浮き立つ。

「切り雨さんのご両親って、どんな方なんですか?」

 ポストカードを携える手を見ながら、しぐれが尋ねてくる。

 普段から極力、両親の話はしないようにしているが、素直な彼女には少しぐらい話してもいいような気がして、未央は言う。

「父は公務員みたいなものなんです。母はそれを支えるのを生き甲斐にしてるような人」
「あっ、なんかすっごくイメージ湧きます」
「そうですか?」

 どんなイメージだろう。厳格な父に、奥ゆかしい母。そんなところだろうか。本当の母は社交的で精力的に活動する人だけど、想像に任せておくのも悪くないと、未央はおかしく思いながら、目を細める。

「わかりますよー。切り雨さんみたいに、おおらかで余裕があるんですよね。うちの両親は明るいだけが取り柄のパワフルな人たちだから」
「そうなんですね」
「私がこんなふうになったのに、全然心配しないんですよー」

 あっけらかんと、しぐれは笑う。

「……されてますよ。ちゃんと、心配されてます」
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