心を切りとるは身を知る雨



 未央から電話があったのに気づいたのは、祖母を乗せた車を駐車場に停めたときだった。数分前に2回ほど連続でかかってきている。スマホの画面を見ていると、後部座席から祖母が尋ねてくる。

「しぐれちゃんに何かあったの?」
「あ、いや。しぐれ、家にいないの?」
「フルーツやさんに行ってくるって言ってたよ。何かあるなら、行っておいで」
「またフルーツ買いに行ったのか」

 それなら、切り雨にも出かけただろうか。

 自らドアを開けようとする祖母に気づいて、「ごめん、開けるよ」と、朝晴はあわてて外へ出ると、後部座席のドアを開く。

「悪いねぇ。おばあちゃんは先に入ってるでね」

 ゆっくりと出てきた祖母が、これまたゆっくりとした足取りで玄関へ向かう。片引き戸の前で立ち止まり、曲がった背中をさらに丸めて、小さな手縫いのかばんから鍵を取り出す。

 片引き戸は車椅子でもそのまま通れる広さがあり、祖母はその半分ほどを開けて、中へ入っていく。その後ろ姿を見届けて、未央へ電話をかけ直す。すぐに彼女は出ると、「ごめんなさい」と謝った。

「何かありましたか?」
「あの……、しぐれさん、帰ってますか?」
 
 未央にしては珍しく、歯切れ悪く尋ねてくる。

「いや、まだ帰って……」
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