心を切りとるは身を知る雨
 そう言いかけたとき、コンクリートのアプローチにのろのろと入ってくるしぐれが見えた。ひざに大きな荷物を乗せている。

 ああ、そうか。数日前、切り雨にあるバイクの切り絵が気に入ったなら買ってきたらどうだとお小遣いを渡したのだった。

「しぐれ、おかえり。切り雨さんに行ってきたのか?」

 電話をつなげたまま、しぐれに声をかける。

「うん、買ってきた。お金はちゃんと返すからね」
「アルバイト探さないとな」

 目の前で止まったしぐれは、スマホの方へ視線を向ける。通話中だと気づいたのだろうか。無言でうなずくと、スロープをのぼって玄関へ入っていく。

 祖母の家へ引っ越すと決めたとき、車椅子での生活に不自由がないように、昔ながらの家屋を改装した。おかげで、購入予定だった新車はあきらめたが、しぐれはほとんど自力で生活できるようになっている。口達者で人付き合いが好きなしぐれなら、いずれ、仕事も見つかるだろう。そうしたら、気持ちの切り替えができるんじゃないだろうか。

「しぐれ、いま、帰ってきましたよ。どうやら、作品を買わせてもらったみたいで」
「帰ってこられました? よかった。作品が大きかったので、大丈夫かなって心配していたんです」
「それで、わざわざ電話を?」
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