心を切りとるは身を知る雨
 今度は意外そうに、目をぱちくりさせる。

「雨は涙を表現してるんですよ」
「じゃあ、この雨は泣きやまない涙?」

 七下の雨を指差して、彼は言う。

「傷ついた心は傷ついたままでもいいんです。作品が代わりに泣いてくれるから、悲しみは預けておけばいいんですよ」
「預けて……。だから、少し気持ちが楽になれるんだね」
「はい」

 未央が雨をモチーフにした作品に傾倒し始めたのは、婚約者の裏切りを知ったときからだろうか。苦しい気持ちは作品に変えて、悲しみを薄めていく。未央はずっとその作業を繰り返している。

「へぇ、すごいや」
「すごいですか?」
「うん、すごい。じゃあ、あれも……」

 有村くんは隣に飾られた切り絵を指差し、「あっ、あれも。……あれも?」と、次々に指差していく。

「雨ばっかりだ」
「涙にもいろんな形がありますよね」
「だから、いろんな雨なんだ」

 店内に飾られた作品のすべてに、雨にちなんだタイトルがつけられているのに気づいて、目をまん丸にする彼の驚きは新鮮で、自然と笑みがこぼれる。

「実は、そうじゃない作品もあるんですよ」
「どんなの?」
「ポストカードは特別で。清倉の風景だったり、名産品だったり。旅行に来られた方の思い出になるようなデザインにしてるんです。風鈴もあったと思うんだけど」

 カウンターに置かれたポストカードをいくつか手に取り、風鈴の切り絵を探す。
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