心を切りとるは身を知る雨
「しぐれも言い過ぎたかもしれませんね。落ち着いたころに、ふたりで切り雨におじゃましますよ」
「でも、それでは私の気がおさまらないです」

 落ち込んでいるかと思ったら、待っているだけでは落ち着かないとばかりに主張する。意外と、未央にもがんこな一面があるのかもしれない。

「時薬というじゃないですか。大丈夫ですよ、八坂さん。しぐれだって、本心ではわかってますから」
「井沢さんにまで気をつかわせてしまってごめんなさい。だめですね、私」

 ふたたび、彼女はしょんぼりとした様子で息をつく。コロコロとよく感情の動く人だ。厭世的な雰囲気の彼女だが、実は人間味あふれる人かもしれないと、朝晴はどこか愉快な気分になる。

「八坂さんは本当に優しいんですね。俺は全然いいんですけどね、少しでも悪いなぁって思うなら、いかがです? 今度、一緒にカフェにでも」

 少しおちゃらけたように言うと、未央はあきれるように笑った。よかった。くだらない話で気をまぎらわせてくれそうだ。

「冗談がお上手ですね。ありがとうございます」

 感謝はされど、どうやら、誘いに対する返事はくれないらしい。半分は本心なんだけどな、と朝晴は心の中でごちりながら、電話を切った。
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