心を切りとるは身を知る雨
 スマホをポケットにしまい、玄関に入ると、正面にあるリビングで一息つく祖母が、「お茶飲むかい?」と急須を持ち上げる。

「あとで飲むよ。しぐれは?」
「しぐれちゃんは部屋へ行ったよ」

 朝晴はそのまま右手の廊下を進む。しぐれの部屋は一階にある。庭を望める東の部屋だ。

「しぐれ、ちょっといいか?」

 閉まるふすまに声をかける。

「何?」

 奥からつっけんどんな声が返ってくる。どうも、虫の居どころが悪そうだ。

「買ってきたんだろ? 俺にも見せてくれよ」
「なんで?」
「まだあんまりよく見てないからさ。なあ、ちょっとだけ」
「ちょっとだけだよ」

 仕方ないなぁ、とばかりの返事がかえってきたから、朝晴は「入るぞ」と声をかけ、ふすまを開ける。

 しぐれは車椅子を降り、ベッドの端に腰かけていた。ひざの上に、大きめの額縁がある。朝晴は床の上であぐらをかき、額の中をじっと見つめるしぐれを見上げる。

「八坂さんから聞いたよ。しぐれの気持ちをわかったような気になって、余計なこと言って申し訳なかったって謝ってたよ」

 単刀直入にそう切り出す。

「さっきの電話って、切り雨さん?」
「心配してかけてきたんだよ」
「そっか……」

 頼りなげな表情でつぶやく。

 しぐれだってわかってるのだ。家族以外の前ではいつも明るく振る舞っているのに、未央にあたってしまったのは、甘えが出たってことに。それは、彼女に気を許している証拠だろう。
< 61 / 99 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop