心を切りとるは身を知る雨
***


 朝晴がひとりで切り雨へやってきたのは、日曜日の午後のことだった。

「夏休みも終わりましたね。新学期、大変じゃありませんか?」
「子どもたちが元気すぎて大変ですよ。しばらくは日曜日しか、こちらに来られそうにないです」

 毎週来る気だろうか。そう思ったのが顔に出たかもしれない。朝晴は苦笑いする。決して、負担には感じていないのだけど、戸惑う気持ちがどうしても、彼には迷惑がられていると取られてしまうようだ。

「切り雨さんもお忙しそうですね」

 カウンターの上に積まれた切り絵をのぞき込んで、彼は言う。

「はい。おかげさまで。ちょうど今、秋に合う作品はないかと問い合わせがあったので、探していたんです」
「要望に合うものは見つかりましたか?」
「いくつか。来週にでもご来店いただけるそうなので、それまでにレイアウトを変えておこうと思ってるんですよ」
「それは大変ですね。お手伝いしましょうか」

 さっそく、腕まくりする彼にやんわりと答える。

「ちょうど、作品の入れ替えをしようと思っていたので、少しずつやっていきますから」
「そうは言っても、休日は何かと忙しいですよね。今日はもう予定もないので」
「近々、アルバイトを雇おうかと思っているんです」
「そうでしたか。俺にも何かやれることがあれば、遠慮なく言ってください」
「ありがとうございます。でも、本当に大丈夫なんですよ」

 何度も食い下がる朝晴に、未央はつい苦笑しながらも、次第に真剣な表情になって口を開く。
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