心を切りとるは身を知る雨
「しぐれさんはお元気? あれから一度もいらしてないので、気になっていたんです」
「それが、ずっと拒んでいたリハビリに行くって急に言い出しまして」
「リハビリを始められたんですね」
「気持ちの問題が一番大きいですからね。うまくいけば、前のように歩けるかもしれません。八坂さんのおかげですよ」

 朝晴はそう言って、優しげに目を細める。

 服装も髪型もかしこまってない自然体な彼に似合う笑顔に、未央は時折、どきりとする。

 別れた婚約者もそうだった。大手企業の御曹司として生真面目な一面を持つ文彦だったが、子どものような純粋さを持ち合わせていた。ふたりで一緒にいるときだけは、緊張を和らげたように穏やかに笑い、やすらぎを分けてくれる人だった。

 朝晴と文彦の姿は似ても似つかないけれど、素の部分にどこか似たような心根の優しさを持っている気がして、好意的に感じてしまうのかもしれない。

「そう言っていただけると、切り絵作家としての活動が無意味ではないと思えます」
「祖母の話では、リハビリに行く前に名残の夕立を見て、勇気づけられてるそうです。そういった方はほかにもいらっしゃると思いますよ」
「ありがとうございます。しぐれさんを傷つけてしまったので、もうお会いできないんじゃないかって落ち込むときもあって」
「あれは、しぐれの問題であって、八坂さんは巻き込まれただけです。しぐれが壁を乗り越えたら、また会いに来ますよ」
「会いに来てくれますでしょうか」
「必ず」
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