心を切りとるは身を知る雨
 力強くうなずく朝晴に救われながらも、聞いてほしくて未央は言う。

「以前にもお話しましたけれど、私、大切な知人を交通事故で亡くしているんです。その経験をしぐれさんと重ねてしまって、生きていてよかったと言ってしまいました。でも、そのつらさは一緒じゃないですよね。わかったようなことを言って、井沢さんにもご心配をかけてしまいました。ごめんなさい」
「俺もしぐれに同じこと言いましたからね。しぐれにはその気持ちが重たかったかもしれませんが、人の気持ちなんて本当のところはわからないですよ。だから、自分の気持ちは伝えてよかったんじゃないですか? 少なくとも今回の件で、八坂さんの痛みを俺は知ることができたわけですし」

 朝晴の気遣いに、やはり、未央は救われる。

「井沢さんとお話していると、なんでも話したくなる気がします。そんな気持ちになれる方が教師をされてるのは、子どもたちも心強いですね」
「それで、子どもたちも俺に秘密の話を持ちかけてくるのか」

 冗談なのかそうではないのか、納得するようにうなずく彼がおかしくて、未央はくすりと笑う。

 文彦と会えなくなってから、めっきり笑う機会は減ってしまっていたけれど、朝晴と一緒にいると、楽しいという感情が湧き上がってくる。清倉に思い切って引っ越してきたのは間違いじゃなかった。
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