心を切りとるは身を知る雨
「こんばんはー。まだやって……あれっ? お兄ちゃん」

 そろそろと開いた引き戸から顔を出したのは、しぐれだった。

 しぐれはいつも、閉店間際にやってくる。その時間が一番、客がおらず、迷惑をかけないと知っているからだ。未央がそれに気づいたのは、何回目かの来店の時。ほかの客の足が車椅子にぶつかり、彼女がひどく申し訳なさそうにしていることがあった。あのあとから、彼女は客のいない時間を見計らってくるようになった。心根が優しいのは朝晴だけでなく、彼女も同じだ。だから、彼らには信頼感がある。

「なんだ、しぐれ、来たのか。雨が降りそうだから家にいるって言ってただろう」
「おばあちゃん、しょうゆがないって言うから」
「買ってきたのか?」
「うん。ばっちり」

 しぐれはくるりと車椅子を回転させる。後ろには、花柄のマイバッグが引っかかっている。

「俺も自転車だしな。雨降る前に帰るか」

 空の様子を気にするように、朝晴は店の外へ出ていく。

「しぐれさん、いらっしゃい。お元気そうですね」

 そう声をかけると、しぐれは気恥ずかしそうにする。

「この間はごめんなさい。すっごく反省したんです。許してくださいっ」

 ぺこりと頭をさげると、ポニーテールがぴょこんと揺れる。
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