心を切りとるは身を知る雨
「売れちゃったかな」
「そっか……」

 期待した分だけ肩を落とす有村くんに申し訳なくなる。

「ポストカードはちょうど千円だから、飾るのにもいいかなって思ったんだけど。待ってね。探してみるから」

 カウンターの中に入り、ガラスケースの下にある引き出しを開く。四季ごとのデザインに分けて、ポストカードは入れてある。夏用の作品のストックを一枚ずつ指でめくって確認していく。

 そうしている間に、有村くんはふたたび、七下の雨を見上げる。

「一万円もするんだ……」

 ぽつりとつぶやく。

「ほとんどの作品はサイズでお値段をつけてるんですよ」
「やっぱりすごいんだな、この店って」
「すごいって?」
「おばあちゃんがここは金持ちの道楽の店だって言ってたから」

 その歯に衣着せぬ言い方に、未央はそっと笑む。

 開店当初、昔から清倉で暮らす人々が切り雨に興味本位でやってきていたが、「観光客向けだな」や、「美術品だと思わないと買えないな」と思い思いに話して帰っていったものだった。

「ごめんね。やっぱり、風鈴はないみたい。少しお日にちもらえるなら、今からお作りしますよ」

 有村くんはがっかりしつつ、首を横に振る。

「いいです。欲しいのは、音の鳴らない風鈴だから。わざわざ探してもらってごめんなさい」

 もっとはやく言えばよかったと、彼は腰を半分に曲げて頭を下げる。礼儀正しい子だ。
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