心を切りとるは身を知る雨
 なんと答えたらいいのかわからなくて戸惑っていると、店内へ朝晴が戻ってくる。

「雨、降ってきましたよ」
「やむまで、どうぞ、いてください」
「いつもすみません」

 頭をさげる彼の横から、空を見上げる。

「夕立ですよね。向こうの空は明るいですから、すぐにやむと思いますよ」
「もう夏が終わりますね」

 隣に並んで、朝晴がしみじみと言う。

 季節の変わり目が、未央はわりと好きだ。季節終わりの雨や日差しの傾き、風の匂いに変化を感じるとき、生きていることを実感できるからかもしれない。

「新しい未来が始まる気がするね」

 しぐれも、ひょっこりと顔を出し、空を見上げて明るい声をあげる。

「しぐれの新しい未来のための第一歩はもう始まってるよ」
「そうだといいなぁ」

 しぐれは嬉々として足もとへ視線を落とす。歩けるようになっている未来を想像しているのだろうか。

「大丈夫さ」

 朝晴の言葉に同調して、未央は言う。

「そうですよ、しぐれさん。もしよろしければ、私にそのお力添えをさせてくれませんか?」

 顔を見合わせる彼らに提案する。

「切り雨で、働いてみませんか?」




【第二話 名残の夕立 完】
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