心を切りとるは身を知る雨
第三話 ほろほろ雨
車椅子での接客には不自由もあるだろうと心配していたが、もともと明るくて機転の利くしぐれの仕事ぶりに、未央はほとほと感心していた。
しぐれには主にインターネット販売の梱包をお願いしていたが、彼女の提案で、サイトの見栄えを落ち着きのあるものからエレガントな雰囲気に変え、メインに扱っていたポストカードや小物入れに加え、指輪やイヤリングなどの装飾品のレパートリーを増やしたら、若い女性からの注文が多く入るようになった。
店番をしぐれに頼んでいる間も、店舗に隣接するアトリエで、未央は集中して作品づくりができている。何かあれば、すぐに未央が店に出られる安心感もあるのだろう。時折、お客さまとの笑い声が聞こえてくる様子を見れば、しぐれものびのびと接客しているようだった。
清倉へひとりで越してきて、東京の生活に慣れきっていた自分が田舎の生活に馴染めるのだろうかと、最初は不安だらけだったが、今は驚くほどに充実している。
そんな忙しい毎日を送っていれば、別れた婚約者である財前文彦のことはもう思い出さないだろうと思っていたが、やはり、まだ彼の裏切りにこだわる自分はいるのかもしれない。
このところ、夕方になると、傘をささなくても大丈夫な程度のわずかな雨が降る。そのほろほろと降る雨を見ると、文彦と別れたあの日に降っていた雨を思い出す。