心を切りとるは身を知る雨



 土曜日の今日は珍しく、午後からまとまった雨が降っていた。

「兄が迎えに来てくれるって言ってたので、大丈夫ですよ」

 自宅まで車で送るという未央の申し出を、笑顔で遠慮したしぐれは、パソコンのメールボックスを開き、問い合わせメールが入っていないか確認し始める。それが、一日の終わりに行う彼女の最後の仕事だ。

「そういえば、最近、井沢さん、いらっしゃってませんね」

 未央は看板を片付けながら、ふとつぶやく。

「先週も東京に遊びに行ってたんじゃなかったかなぁ」

 しぐれはあまり興味なさそうに答える。

 井沢朝晴としぐれは仲の良い兄妹だ。朝晴は、妹に困ったことがあれば、すぐに駆けつける兄だが、普段は自分の好きなようにあちらこちらへ出かけて忙しくしているようだ。

「東京へよく行かれるんですね」

 ひとりごとのようにつぶやいたとき、引き戸が開いて朝晴が顔を出す。

「今の季節は展示会が多くありますからね。友人の誘いが多くて困ります」

 濡れた肩をハンカチでぬぐいながら、店内へ入ってくる彼は、困ると言いながらうれしそうに微笑んでいる。
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