心を切りとるは身を知る雨
 刺激の少ない清倉の暮らしに不満はないと言いながら、東京の生活にも未練があるのだろうか。そう思わせる表情を見せているが、バイタリティのある彼なら、どちらの生活も両立できるのだろう。現に、中学教師の仕事に励みながら、前職の関わりも断たずに東京へ出かけ、必要とあれば、アルバイトをする妹の送迎までするのだから。

「いらしてたんですね」

 未央も笑顔で出迎える。どういうわけか、彼に会うと、沈んだ心に花が咲いたような温かい気持ちになる。

「ちょうど着いたところで、未央さんの声が聞こえました」

 しぐれに影響されたのか、朝晴もいつからか、未央さん、と気安く名前で呼んでくるようになった。こちらはまだ慣れなくてそわそわしてしまうが、人なつこい彼にはすっかり馴染んでいるようだ。

「今日も展示会へ行かれた帰りですか?」
「展示会のはしごをしてきました。新しい芸術は常に取り入れていたいんですよ。そういう意味では、切り雨さんの作品も目が離せませんね」
「ありがとうございます。新しい芸術とまではいきませんけれど」
「そんなことはないですよ。何色もの画用紙を組み合わせた、絵画のような色使いもそうですが、立体的な作品も切り絵の概念をくつがえしてると思いますよ」

 朝晴は店の奥に飾られたつるし飾りの前で足をとめる。降り注ぐ雨をデザインしたもので、かなり細く切った画用紙一枚を丸型にしたものだ。
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