心を切りとるは身を知る雨
「これなんか特にそうですが、一番の注目は、繊細さですね。本当に切り絵なのかと目を疑う細さで切られていますよね」
「よく見てくださってますね」
「それはもちろん。ほかの作品も素晴らしいですよ。俺はわりと素朴な感じの作品が好きで……、そうそう、これなんか、温かい気持ちになります」

 そう言って、朝晴が指をさすのは、『ほろほろ雨』だった。

「仲の良い幼なじみでしょうか。ほのぼのとしたいい作品ですね」
「そう見えますか?」
「違いますか?」
「いいえ」

 未央は首を振り、ほろほろ雨を見つめる。

 手をつなぐ女の子と男の子は、未央と文彦。純粋だった子どものころを懐かしんでほしい。そんな思いで作り上げた作品だ。

「前から気になってたんですが、この作品は何か特別な作品だったりするんですか?」

 遠慮がちに尋ねてくる。

 朝晴がそれに気づいたのを、未央は意外には感じなかった。彼は勘のいい人だ。何か感じたのだろう。

「どうしてそう思われるんですか?」
「以前、季節ごとに作品を入れ替えるって言ってましたよね。しぐれのために店内のレイアウトを大幅に変えてくれても、この作品はずっとここにあるので」
「本当によく見てるんですね」

 半ばあきれ、半ば感心しながら、未央は言う。

「実は、通りからよく見える場所にあるので、誰かに見つけてもらいたいのかと思いまして」
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