心を切りとるは身を知る雨
「見つけて……。そうですね。そうかもしれません」

 彼の言う通り、ほろほろ雨は窓際に飾ってある。何の店だろう? と気軽にのぞいた通行人の一番目につく場所に。

 優しくこちらを見守る朝晴の穏やかなまなざしを見ていると、未央は素直になれる。つらかった気持ちを話したくなる。

「この作品は、ある人のために……」

 朝晴には安心感があって、もう誰にも話すことはないと思っていた胸の内を言いかけた。しかし、正直すぎるのもどうかと、まだ戸惑いがあり、迷って言い直す。

「ある人と言いますか、友人の恋人のために作ったものなんです」
「ご友人の恋人?」
「はい。注文を受けて作り始めたものの、完成間際になってキャンセルになってしまったんです」
「それは、大変でしたね」
「思いが届かないときはそんなものだと思ってるんですよ」
「そんなものですか」

 朝晴がそうつぶやいたのは、ぞんざいなものの言い方に引っかかったからだろうか。普段ならうまく取り繕えるのに、文彦を思い出すたびに心の奥底にある痛みがうずき、どうしようもなく未央はいら立ってしまう。

「友人とその恋人は別れてしまったんです。ふたりの思い出になるような作品はいらなかったんじゃないでしょうか」
「作品に罪はないのにもったいない」
「いらないものとして買われるよりは、こうして店に飾られている方が、作品にとってもいいでしょうから」
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