心を切りとるは身を知る雨
「ちなみに、ご友人は女性?」

 朝晴はなぜか、そんなことを気にした。

「私、男の人の友人はいないんです」
「そうなんですか。じゃあ、俺が初めての友人ですね」

 彼がにかっと笑うから、込み上げてきていた怒りが不思議とすんなり落ち着いて、未央はくすりと笑う。

 そうして、しぐれへと目を移す。兄が困らせて、とあきれ返っているかと思ったが、彼女は何か考え込んでいるような表情でパソコン画面をじっと見つめていた。

 しぐれが確認作業をしている問い合わせメールの中には、キャンセルメールも含まれている。

 文彦からのキャンセルメールに気づいていた可能性はあるだろうか。未央と文彦の関係性をしぐれに尋ねられたことはなかったが、メールの文面や今の会話から、何かを感じ取ったかもしれない。しかし、それを気にする必要はない。どうしても隠しておきたいことではないし、かといって、聞かれてもないのに話すようなことでもないからだ。

 彼女がこちらに気づいて、いつもの明るい笑顔を見せるから、ますます流れに任せておけばいいと思える。話さなければいけないときが来たら、素直に話す心づもりはあるのだ。

「そろそろ、店じまいしますね」

 未央はそう言うと、窓際のロールカーテンを下ろした。
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