心を切りとるは身を知る雨
「風鈴の形をした立体的な切り絵を探してるんですね?」
「窓に下げられるなら、なんでも」

 立体的じゃなくてもいいのだろう。

「自分の部屋に飾る用ですか?」
「ううん、お母さんの」
「プレゼント?」

 そう尋ねると、有村くんは沈黙した。何やら葛藤しているように見えて、未央も黙って見守る。すると程なくして、彼はため息をつくように告白する。

「お母さん、病気でずっと寝込んでるから、いつも窓から外ばっか見てる」
「そうだったんですか」
「夏は風鈴がないとって、7月にはいつも窓に飾ってた」

 飾ってた? 今はないのだろうか。

「涼しい気分になりますよね」
「でも、おばあちゃんがうるさいって外したんだ」

 ぎゅっとこぶしを握る手に、悔しさが見える。

「だから、音の鳴らない風鈴を探してるんですね?」
「お母さん、さみしそうにしてた。風鈴が揺れてるのだけでも見てたかったって」

 有村くんはお母さんを楽しませたくて、勇気を出して切り雨を訪ねてきたのだろう。その思いを無駄にしてはいけない。未央はすぐさま胸に手を当てる。

「わかりました。窓からつり下げる切り絵の風鈴、作りましょう」
「作れるの?」

 パッと表情を明るくする有村くんに、未央はうなずいて見せる。

「有村さんが」
「僕が?」

 きょとんとする彼に、未央はにっこりと笑う。

「はい。詳しくは、井沢先生からお伝えしますね」
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