心を切りとるは身を知る雨



「ずいぶん、やんだなぁ。ちょうどよかったよ」

 切り雨の裏口に回しておいた車の助手席に、アルバイトを終えたしぐれを乗せて、空を見上げながら発進させる。

 フロントガラスを雨粒がわずかに濡らす。さっきまでのまとまった雨が嘘のように小雨になり、商店街を明るい空が覆っている。

「夕方はいつもこんな雨が降ってるよね」

 窓の外を見上げていたしぐれは、シートに体を預けると、ぽつりとつぶやく。

「お兄ちゃんはさっきの話、どう思った?」
「ん? さっきって?」
「未央さんの話。友人の恋人っていう人の」
「ああ、ほろほろ雨の話か」

 もう何度も眺めた作品だから、タイトルも覚えてしまった。いつも窓際に飾ってあって、色が褪せてしまうのではないかと心配していた。

 しかし、今日、話を聞いて納得したところもある。あの作品を、未央は売る気がないのだろう。色褪せたならそれもまた、あの作品の価値の一つになるのかもしれない。

「あれがキャンセルになったのって、開業してすぐの頃だったみたい」
「へえ、そうなのか」
「そういうメールがあったの、見たんだよね」
「これから頑張っていこうって時にキャンセルが入ったら、ちょっとはショックだろうなぁ」

 まして、友人がらみの注文だ。いっそう気合いは入っていただろうし、未央の中でこだわりのある作品だったとしても不思議じゃない。
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