心を切りとるは身を知る雨
「ここの商店街に出店しようと思ったきっかけとかあるんですか?」
「急にどうしたんですか?」

 未央はおかしそうに目を細めて言いつつ、ふとさみしげな表情を見せる。

「友人が、結婚を考えていた恋人と別れてしまったお話はしましたよね」
「昨日の話ですね?」

 やはり、切り雨の原点に、あの作品は欠かせないのだろう。朝晴は水の入ったグラスに伸ばしかけた手を引っ込めて、未央の話に耳を傾ける。

「はい。彼は切り雨の最初のお客さまでした。時間がかかってもかまわない。思い出になるような作品が欲しい。そう言ってました」
「それが、キャンセルになってしまった」
「時間がかかってしまったから、きっと彼も気持ちが変わったんでしょう」
「心変わりに、どんな理由があったんでしょうね? ああ、いえ、ご友人の話なのに踏み込んで聞いてしまってすみません」

 謝ると、未央は首を横に振る。そして、少し目を伏せると、胸の奥にある何か重たいものを取り出すように、

「ほろほろ雨の話、聞いてもらえますか?」

 と、ぽつりぽつりと話し始めた。
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