心を切りとるは身を知る雨
*
文彦との関係はうまくいっていた。文彦の弟である公平から、文彦が浮気していると聞くまでは。
公平は正義感のある青年だ。財前家の跡取りである文彦を尊敬し、婚約者である未央を姉のように慕ってくれていた。だからこそ、兄の過ちが許せず、未央が傷つくこともまた見過ごせずに、その事実を伝えてきたのだろう。
一度だけではなく、何度も文彦が女の人と会っていると聞かされても、最初は公平の勘違いだろうと思っていた。しかし、思い返してみると、少し前から、会いたいと言えば、いつでも駆けつけてくれた文彦が、仕事を理由に会えないと断ってくる日が増えていたと気づいた。
そんな中、珍しく、文彦から食事に行こうと誘われ、以前からふたりでよく利用していたレストランへ出かけることになった。
「最近、忙しいみたい。職場の人とよく会ってるの?」
心の中は穏やかではなかったが、メインディッシュのローストビーフを口に運びながら、何気ないふりをして尋ねた。
いつも会う女の人は同じ人だと、公平は言っていた。押しに弱そうなおとなしめの女の人で、財前の会社に勤務する文彦の部下だと。
「誰の話?」
文彦は後ろめたさを感じさせない、本当に思い当たらないという表情で、そう答えた。
「あなたの部下じゃないの? 女の人よ」
はっきり言わないとわかってもらえないらしい。もやもやする気持ちを抱えながら言うと、文彦はわざとらしく、「ああ、彼女」とつぶやいた。
「言うほどよくじゃないけどね。悩みがあるみたいだから、相談に乗ったりはしてるよ」
「相談?」
文彦との関係はうまくいっていた。文彦の弟である公平から、文彦が浮気していると聞くまでは。
公平は正義感のある青年だ。財前家の跡取りである文彦を尊敬し、婚約者である未央を姉のように慕ってくれていた。だからこそ、兄の過ちが許せず、未央が傷つくこともまた見過ごせずに、その事実を伝えてきたのだろう。
一度だけではなく、何度も文彦が女の人と会っていると聞かされても、最初は公平の勘違いだろうと思っていた。しかし、思い返してみると、少し前から、会いたいと言えば、いつでも駆けつけてくれた文彦が、仕事を理由に会えないと断ってくる日が増えていたと気づいた。
そんな中、珍しく、文彦から食事に行こうと誘われ、以前からふたりでよく利用していたレストランへ出かけることになった。
「最近、忙しいみたい。職場の人とよく会ってるの?」
心の中は穏やかではなかったが、メインディッシュのローストビーフを口に運びながら、何気ないふりをして尋ねた。
いつも会う女の人は同じ人だと、公平は言っていた。押しに弱そうなおとなしめの女の人で、財前の会社に勤務する文彦の部下だと。
「誰の話?」
文彦は後ろめたさを感じさせない、本当に思い当たらないという表情で、そう答えた。
「あなたの部下じゃないの? 女の人よ」
はっきり言わないとわかってもらえないらしい。もやもやする気持ちを抱えながら言うと、文彦はわざとらしく、「ああ、彼女」とつぶやいた。
「言うほどよくじゃないけどね。悩みがあるみたいだから、相談に乗ったりはしてるよ」
「相談?」