心を切りとるは身を知る雨
 関係修復が困難だと決定的になったのは、未央と公平の関係を疑い、部下の女の人に相談したという話を文彦本人から聞いたときだった。

「公平が俺の浮気を心配してるなんて、絶対何かあるって、彼女が言うんだよ」
「だから、私たちを疑ってるの?」
「僕はね、未央を信用してたんだよ。公平の方が未央と年も近いし、話も合うだろうとは思ってたけど、それは考えないようにしてた。僕たちの関係を白紙に戻したいなら、そう言ってほしかったよ」
「私が別れたがってると思ってるの?」
「最近の未央は僕に対してよそよそしいじゃないか」

 それは当然だ。浮気しているとわかっているのに、何もないように振る舞う婚約者をどう扱えばいいのか、未央にはわからない。

「裏切ってる自覚はないの?」
「僕が裏切ってるって?」

 あくまでも、しらを切る。

「どうして裏切ったの?」
「裏切ってないよ」
「ホテルの部屋にいたでしょう? ふたりで」

 それはこの目で見た。言い逃れはできない事実だ。

「彼女が誰にも聞かれたくない相談だって言うからね。実際、業務上、あなたには話せない悩みを抱えているんだよ」
「仕事の話なら、ホテルじゃなくても」
「アドバイスしてただけだよ」
「嘘よね?」

 じっと見つめると、文彦は気まずそうに目をそらした。
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