心を切りとるは身を知る雨
 未央は恥ずかしいと、照れ笑いを浮かべる。

「正直言うと、見慣れない女性が泣いてるのに気づいて、心配で声をかけたんです。あわてて涙をふく仕草をして、笑顔を見せてくれたとき、ああ、大丈夫だろうとは思ったんですが」
「もう陽が落ちる前の夕方だったので、誰もいないと思っていたんです」
「ここから見える夕日は美しいですからね。時々、仕事終わりに来ていたんですよ。だから、見慣れないあなたにすぐに気づいた。ずっと、どうして泣いていたのか気になっていたんです。でもようやく、わかりました」

 朝晴は生真面目な表情をして、こちらへと目を移す。

「文彦さんの婚約者は、未央さんですよね?」
「お気づきになりますよね」

 未央はため息を吐くように笑う。

「だからあの日、泣いていたんですか?」

 文彦との婚約を解消し、どこでもいいから出かけようと家を飛び出した。たまたま電車の吊り革広告で目にした清倉へ来て、清倉駅で見つけた展望台のポスターを頼りにここへやってきた。

 美しい景色とともに、木の柵の下には目がくらむような崖が見えて、人生をここで終えるのも悪くないだろうと思った。

「どうして商店街に店を出したのか……」
「え?」
「昨日の質問にまだ答えてませんでしたね」

 そう言うと、朝晴は昨日の会話に戻るように尋ねる。

「どうして、清倉へ?」
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