甘い初恋を、もう一度
どんどんと近づく彼の顔に、思わず仰け反りそうになる。
だけど唇が触れる直前、寸止めだ。

「こんなこととか?」

顔を離すとクスっと笑いながら、皓大君はソファーに勢いよく座った。
そのまま何事もないように、グラスのお酒を飲んでいる。その姿に何だか妙に腹が立った。


私は彼を好きでたまらないけど、遠くに行ってしまうことだし、気持ちを伝えてこの恋に踏ん切りを付けたかった。
だけど何でこんなに思わせ振りな態度を取るのか。


今度は逆に、私が彼のシャツの襟元を掴んだ、そのまま勢いよく唇を近付けて、強引に力任せに押し付けるだけのキスをした。


唇を離して彼を見ると、豆鉄砲をくらったように私を見つめていた。
私はやってしまった恥ずかしさが徐々にこみ上げ、何だか悔しさも入り交じって……何も言わずに、踵を翻してその場を後にした。


それが私のほろ苦く、懐かしい初恋の話。
だから私のファーストキスは、柔らかな唇の感触の中に、ほんのりカシスオレンジ味がするキスだった。
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