甘い初恋を、もう一度
「何で逃げるの?」
「あの、えっと、えっと……」
ふふっと微笑む顔は、昨夜の甘い顔と同じで心臓に悪い。
「いや、あ……昨日は酔っていたから、その……」
「俺が誘ったのに、ひどいなぁ」
「で、でも酔ってたし!」
「責任なら俺が全部取るよ」
彼は身体を乗り出して、私の方に近づいてくる。
「順番は違ったけど、花月、俺と……」
「遅刻するので失礼します!!」
恥ずかしさのあまり、突き飛ばしてベッドから降りる。
そしてなりふり構わず猛ダッシュで着替えると、走ってホテルの部屋を後にした。
そして一度家に帰り、始業時間ギリギリに出社した。
(はー、危な……)
タイムカードは始業三分前。
ふと隣にあるホワイトボードに目をやると、『長森』の欄には『終日製造部』の文字がある。どうやら実鈴と今日は会わないみたいで、その事にも少し安堵する。
猛ダッシュで駆け抜けたので頭の中は他のことを考える余裕はなかったけれど、出社し一息つくと、改めて今朝のことがじんわりと頭の中に湧いてくる。
──正直皓大君のことは、すごく好きだった。
ずっと忘れられない恋だったのは本当。