甘い初恋を、もう一度

だけども、だ。
正直彼氏と別れたばかりで、気持ちが恋愛に向いていないというのもある。
こんなに私は簡単に流されやすい人では無かったはずだ。

それに長年かけて、自ら色褪せるように……この恋が思い出になるように、心の中で消化しようと頑張っていた。だから一度仕舞われたものが、いきなり目の前に出てきている感じで、気持ちが追い付かない。


(しばらく、考えたくない……)

でも仮に過去に遡り、付き合うことになったとして……私は喜んでハイと言えただろうか。
それこそ言えない気がしている。
しばらく距離を置いて考えよう。
どうせ会社では、平社員の私とは殆ど合わない筈だ。プライベート用の連絡先も知らない。

しばらくやり過ごして気持ちに整理をつけよう。
そう思っていたのだが。


「石倉さん」
不意に呼ばれた声に、身体がぶるっと震える。

「えーっと……須賀さん……」
顔を上げると、昨日よりも険しい顔──仕事バージョンの顔をした、皓大君が立っていた。

「ちょっといいかな?」
「はい?!」

思わず大きな声が出る。
みんなの視線が突き刺さり、これはまずい……と焦るが。


「社長が先日の三光デパートの件でお呼びだ」
正直ほっと胸をなでおろして、わかりましたと返事をする。
そして大きく深呼吸すると、立ち上がり彼の後について行った。
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