甘い初恋を、もう一度
だから今ではごくたまに、会社で顔を合わせるぐらいしか交流は無くなっていた。私も『あの出来事』があったせいで、彼から距離を置いて……わざと会わないという選択をしていたのだけど。


「どうしたの今帰り?最近遅いみたいだけ」
「しっ、静かに……」

私は人差し指を立てて唇に押し付ける。
何事?と言わんばかりに皓大君は首を傾げる。

そして私が指差した方向を見ると「あ……」と呟いた。


「あれは実鈴と、経理の小野原君だね。いやぁ堂々としているね。別にうちは社内恋愛は禁止じゃないけど……」
皓大君が口にしたことで、私も改めて事実を突きつけられた気分になる。
気が付けば目に涙が滲んでいた。

「……花月、どうしたの?」
「付き合ってたの」
「誰と?」
「小野原さん」

皓大君は驚き、あんぐりと口を開けた。

「浮気?!」
「正確にはちょっと前に別れてるけど」

だけどこの様子から察するに、同時進行だったのだろう。
皓大君も同じことを思っているようだ。


落胆している私に、皓大君は優しく微笑みかけた。


「よし、今日は飲もう」
「え?」
「この前の食事会、行けなかったんでしょ?」
「そうだけど……」
「だから俺がおごるよ、ね?」


そして私の返事を聞かないまま、彼は私の手を引いて歩いて行った。
< 4 / 27 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop