冷酷弁護士の溺愛~お見合い相手は、私の許せない男でした~
「単刀直入に伺います。どういうおつもりですか」
なんとか階堂と両親を先に帰らせ、玲は伊神と二人きりの時間を設けることができた。
まっすぐ自分を見る玲の視線に動じず、彼はリラックスした様子でコーヒーを口に運ぶ。
その仕草が洗練されているのが、また腹が立つ。
「どういう、とは?」
「とぼけないでください。結愛の……月島結愛にしたことを、覚えてないんですか?」
伊神はにこりとほほ笑んだ。
「覚えてるよ。彼女は大変だったね」
「大変だったね……って!」
先ほどとは違い、突然崩れた言葉遣いとその内容。
玲は男を殴りたい衝動を押さえつけた。
「悪いとか、思っていないんですか……!?」
「悪い?」
彼が手に持ったコーヒーカップから上げた目が予想以上に冷え切っていて、ぞくりとなる。
「一宮のお嬢さんが、そんなに正義感が強くて大丈夫?」
からかうような声色に、かっと顔が熱くなる。
(なんなの、この人……!)
まともに対応すべき相手ではない。
だが、彼の言った言葉は、玲の本質を見抜いていた。
大丈夫ではない。
この立場や取り巻く環境を疑問に思いながらも、それに抵抗する力もない。
「……大丈夫じゃないです。日々、父には失望しています。……それから、自分にも」
その言葉に伊神は目を丸くし、ふ、と笑いを落とす。
玲は、先ほどまでと、彼の笑顔の種類が変わったような気がした。
「私は、あなたと結婚することはできません。信用できないし、……あなたを許せません」
「俺はそうじゃない」
「え?」
予想外の言葉に、玲は固まった。
彼は机の上で指を組み、居丈高ともいえる態度でこちらを見下ろしている。
「君の家柄は、俺にとって都合がいいからね」
「は……!?」
「ぜひ、結婚を前提にお付き合いしてください」
二の句が継げない。
信じられない。
こんな言葉で口説かれて、うんという女がいるだろうか。
玲は改めて確信した。
この男を好きになることなんて、今後一切、ありえない。