冷酷弁護士の溺愛~お見合い相手は、私の許せない男でした~
第二章 惹かれる心
「玲さん、顔、かーお」
玲はパソコンから顔を上げ、隣を見た。
後輩の大滝 萌が、とんとん、と自分の眉間をつついてみせる。
「え、なんかややこしいの来ちゃいました?」
「ううん、そういうわけじゃないよ……でも」
「何かあったんですか?」
「うーん……あったかも」
「えっ、ランチいきましょ、ランチ!」
途端にテンションを上げる萌に苦笑しながら「いいよ」と返し、玲は再び画面に視線を戻す。
締め日でもないので、今日は昼休みはゆっくりとれそうだ。
仕事は大変なこともあるけれど楽しい。だが、それは全て玲の力で手にしたものというわけではない。
自立したいという気持ちはあるが、就職を希望した玲に父が示した条件が関係会社への就職だったから、玲はこの一宮グループ系列の素材メーカーに、縁故採用――つまりコネで入社している。
本来新卒の就職活動では、玲のような英文学科卒業の人間が、このような、数字を追わない事務の仕事につけることは少ないらしい。営業職に回されることが多いのだそうだ。
だがそれも、入社したあと、徐々に知った事実だ。
玲は自分の力で誰かの役に立ちたかった。
だが、自分のことが社内で密かに噂されていると知り、自分はここにいてもいいのかと悩んだこともあった。
そんな玲の気持ちを変えてくれたのが萌だ。
次の年、同じ総務部に配属されてきた萌は、「学生時代にキャバクラでバイトしていて、そこで専務とのコネができたんですよ」と、玲に堂々と言い放ったのだ。