冷酷弁護士の溺愛~お見合い相手は、私の許せない男でした~


 伊神とはそうして、仕事終わりに何度か食事をした。
 忙しいのは確かなようで、食事が終われば玲を家まで送り、また仕事に戻っていく。

(そこまでしなくてもいいのに)

 ポイント稼ぎだろうとは思うのが、どこか、伊神も玲の前ではリラックスしているように見える。
 そして玲のほうも、彼を許せないことや、その不遜な言動に嫌悪感を抱いているのは確かなのに、彼との時間は不思議と苦痛ではなかった。

「経営については、本当はもっと学んでおきたかったというのが正直なところです」
「今からでも遅くないよ」

 大学も、本当はそういう学部に入りたかった。
 だが、表に出たがる娘だと思われては困る、と父に反対されたのだ。
 そんな玲の発言を馬鹿にすることなく、伊神は優しく言う。
 無責任に持ち上げているだけかと思えば、そうではないようだった。

「君には生まれつき、お父さんという教科書をそばで見て育ったという強みがある。お父さんのやり方を受け入れられない時もあるだろうが、君を見ていると、グループのトップとしての立ち振る舞いは、自然と身に付いていると思うよ」

 玲ははっとなり、なんともいえないむず痒い気持ちになった。
 父との交遊関係の中から少しでも何かを吸収したいと、ずっと思ってきた。だから、自分の努力を認めてもらえたような気持ちになったのだ。
 だが、伊神の言葉はただ玲を持ち上げるだけでは終わらなかった。

「ただ、経営それ自体に関しては素人なのは間違いない。変に口出しをすれば、グループを崩壊させる危険性もある」

 容赦のない言葉に、ぎゅ、と下唇を噛む。
 だが、頭の隅で気づいていた。
 玲に必要なのは、こうして歯に衣着せずアドバイスをくれる人なのだと。
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