冷酷弁護士の溺愛~お見合い相手は、私の許せない男でした~
(困ったな……)
認めたくはないが、初めの印象が最悪だったからか、玲は、彼をそこまで悪い人間だと思えなくなってきていた。だが。
(そう、思わされているだけかもしれない)
人生経験も何もかも、彼のほうが上だ。簡単に信用してはいけない。
玲は芽生え始めた気持ちを振り払うようにして、これから待ち合わせをしているレストランへと向かっていた。
相手は伊神ではない。
どうしても今、話をしておかなければならない相手がいるのだ。
「結愛」
「玲!」
彼女は数か月前のあの頃に比べれば、顔色がずいぶんよくなっていた。
ふわりとした髪に小柄な身長の結愛が駆け寄ってくる。その笑顔にほっとなる。
「結愛、体調はどう?」
「うん、すっごく元気だよ。心配かけてごめんね」
その天使のような姿に振り返る人も多い。
少しつんとした外見の玲に比べ、結愛のその空気は彼女にしか纏えないものだ。
「実はね」
席につき注文をしたところで、玲は、思い切って切り出した。
「伊神弁護士って、覚えてる……?」
「い、がみ……」
首を傾げた結愛の顔色が、心当たりに気づいた瞬間、さっと青ざめる。
玲はその一瞬で、自分の迂闊さを悔やんだ。
「ごめん……っ」
「いや、大丈夫なの、ごめん、こっちこそ!」
無理矢理作る笑顔が痛々しい。
やはりまだ早かったかもしれない。
だが、ここまで言ってしまったら、話さないわけにもいかない。
「こないだ、お見合いした相手が、彼だったの」
「……っ」
結愛の顔から血の気が引いていく。
だが、ふるふると顔を横に振り、口角を上げようとする。
「私のことはほんとに気にしないで。玲が、いいと思うなら……っ」
「結愛、無理しないで。いいなんて思ってない。結婚なんてしたくない。でも、どうしてもすぐに断れなくて……結愛には黙っていたくないって思ったの」
結愛は呼吸を整えている。
水を一口飲み、そうして、先ほどよりは落ち着いたように見えた。
「ありがとう、話してくれて。あの時のこと、まだ思い出すのは辛いけど……でも、あの人はただ自分の職務を全うしただけだとも思う。恨むのはお門違いというか。そう思ってるよ」