冷酷弁護士の溺愛~お見合い相手は、私の許せない男でした~


(困ったな……)

 認めたくはないが、初めの印象が最悪だったからか、玲は、彼をそこまで悪い人間だと思えなくなってきていた。だが。

(そう、思わされているだけかもしれない)

 人生経験も何もかも、彼のほうが上だ。簡単に信用してはいけない。

 玲は芽生え始めた気持ちを振り払うようにして、これから待ち合わせをしているレストランへと向かっていた。
 相手は伊神ではない。
 どうしても今、話をしておかなければならない相手がいるのだ。

「結愛」
「玲!」

 彼女は数か月前のあの頃に比べれば、顔色がずいぶんよくなっていた。
 ふわりとした髪に小柄な身長の結愛が駆け寄ってくる。その笑顔にほっとなる。

「結愛、体調はどう?」
「うん、すっごく元気だよ。心配かけてごめんね」

 その天使のような姿に振り返る人も多い。
 少しつんとした外見の玲に比べ、結愛のその空気は彼女にしか纏えないものだ。




「実はね」

 席につき注文をしたところで、玲は、思い切って切り出した。

「伊神弁護士って、覚えてる……?」
「い、がみ……」

 首を傾げた結愛の顔色が、心当たりに気づいた瞬間、さっと青ざめる。
 玲はその一瞬で、自分の迂闊さを悔やんだ。

「ごめん……っ」
「いや、大丈夫なの、ごめん、こっちこそ!」

 無理矢理作る笑顔が痛々しい。
 やはりまだ早かったかもしれない。
 だが、ここまで言ってしまったら、話さないわけにもいかない。

「こないだ、お見合いした相手が、彼だったの」
「……っ」

 結愛の顔から血の気が引いていく。
 だが、ふるふると顔を横に振り、口角を上げようとする。

「私のことはほんとに気にしないで。玲が、いいと思うなら……っ」
「結愛、無理しないで。いいなんて思ってない。結婚なんてしたくない。でも、どうしてもすぐに断れなくて……結愛には黙っていたくないって思ったの」

 結愛は呼吸を整えている。
 水を一口飲み、そうして、先ほどよりは落ち着いたように見えた。

「ありがとう、話してくれて。あの時のこと、まだ思い出すのは辛いけど……でも、あの人はただ自分の職務を全うしただけだとも思う。恨むのはお門違いというか。そう思ってるよ」

< 16 / 37 >

この作品をシェア

pagetop