冷酷弁護士の溺愛~お見合い相手は、私の許せない男でした~
「依頼主? やっぱり政治家は多いかな」
「離婚問題から刑事訴訟まで、幅広く対応なさってるんですね」
ワインを口に運びながら、玲はそう尋ねた。
通常、弁護士には得意分野があるものだという。だが顧客が政治家ということで、相談される様々な案件に対応せざるを得ないのだろう。
玲は自分なりにその判例を確認してみたりもしたが、彼がどの分野でも高く評価されているのを見て驚いた。
伊神はまた可笑しそうに笑いを落とした。
「興味をもってくれてるようで何よりだ」
普通、こそこそ探られるのは嫌なはずなのに、伊神は全く動じず、どこか嬉しそうに言う。
玲はその読めない感情の奥を探ろうと、彼をじっと見た。
「こないだ仰っていた件ですけど……ああいう人たちの信用を得てそれから、何か目的でもあるんですか?」
「なんでそう思うの?」
「伊神さんのお父様はもともと投資家でいらっしゃいますよね。伊神さんだって優秀ですし、正直、自分で手に入れられないものなんてないのにと思って」
「照れるな」
「茶化さないでください」
眉を寄せて伊神を見てから続ける。
「今は海外にお住まいを構えておられて、伊神さんももともとはそこにお住まいだったのに……。わざわざ日本で弁護士を志された理由ってなんなんですか?」
まるで面接のような、かわいくない質問をしているとは分かっている。
こんな質問、人によっては今ここで怒って席を立ってしまうだろう。
でも、伊神はやはり嬉しそうに目を細めるだけだ
その目が、今日はいつもよりまっすぐに玲を捉えている気がして、座り心地が悪くなった。
「日本は治安もいいし、大学の水準も高いし。それに目的は、君が言っていたとおり、名誉や地位だよ」
にっこりそう言うから、玲は眉を寄せた。
本当のことを言ってくれる様子はなさそうだ。
「玲さん」
「……っ、はい」
その時、突然名前を呼ばれて、玲の心臓は跳ねた。
こちらを見る伊神の目に、どこか色気に満ちた、鋭い光がある。
「俺と結婚して」
「……っ」
突然の、まっすぐなプロポーズの言葉。
同じようなことはあの見合いの場から何度か言われているが、今、彼は、油断している玲の心を刺しに来た。
顔が熱くなる。
それに気づかれたくなくて俯いた。
信用できないのに。よく分からない男なのに。
「だから、ごまかさないで、ください」
自分の心臓がどきどきと音を立てているのが、嫌になる。