冷酷弁護士の溺愛~お見合い相手は、私の許せない男でした~
第三章 疑うか、信じるか
「玲さん、ちょっといいですか?」
「いいけど、どうしたの?」
萌が会社でそう言って声をかけてきたのは、その翌週のことだった。
いつもと違う様子に、玲のほうも心配が先にくる。
「ちょっと、昔のバイトのお客さんから聞いたんですけど……今日ってランチどうですか?」
今までにない雰囲気に、玲はこくこくと頷いた。
「学生時代の伊神さんを知ってるって言ってる人がいて」
「えっ」
個室に入るやいなや、声を潜めて言った萌の言葉に、玲は目を丸くした。
「伊神さんと同じ大学出身って言ってる人がいて、詳しく聞いてみたんです」
「ちょっと! そんなにいろいろ話しちゃだめだよ……!」
「すいません勝手なこと。でも、有益な情報ですよ!」
玲は額に手を置いた。萌に情報を伝えたのは間違いだった。
こんな簡単に、よく分からない相手に情報を漏らすなんて。
だが、萌は前のめりになって続ける。探偵みたいなことをするのが楽しくてたまらないと顔に書いてある。
「なんかその話によると、やっぱり、弁護士なんて目指してなかったみたいですよ。伊神さん」
「え?」
「途中でいきなり進路を変えたんですって。それまではお父さんと同じく、大学通いながら会社経営してたみたいで。その頃からめちゃめちゃ稼いでたって」
「会社……?」
「そう、だから、辞める必要なかったのになんでだろう、って噂になってたらしいですよ」
確かに、その疑問も頷ける。
そしてそうなると、やはり名誉や地位が目的、と言った彼の言葉は嘘になる。
玲が考え込んでいると、萌が顔を近づけてきた。
「なんかそれが、オーガニック系の会社っぽいとか、クラファンがなんとか」
「え……それってなんか、怪しげな感じ……?」
「いや、わかんないです。でも、ちょっとそんな感じしますよね」
萌は苦笑し、玲はまた考え込んだ。
大学や進路のことは、釣り書きにも書いてあった。だが、会社の経営のことは初耳だ。
何もないのが一番だが、もし彼が何か悪いことに手を染めているのなら、お見合いを断るはっきりとした理由になる。
「ちょっと、私も探ってみる……」
「気を付けてくださいね」
萌の真剣な表情に、玲もごくりと唾を飲みこんだ。