冷酷弁護士の溺愛~お見合い相手は、私の許せない男でした~
玲は、たしかに世間知らずだ。
だが自分でそれを分かっているつもりで、実際のところは、まだまだ自覚が足りなかった。
「お疲れ様です」
「お疲れ様でしたぁ~! 今月トラブル続きで大変でしたね。玲さん、今日はお迎えなしですか?」
「いつも来てるみたいに言わないで」
苦笑して答えると、萌の表情に真剣みが混じる。
「いやいや、もう十時過ぎてるからさすがにと思って」
「大丈夫だって。萌ちゃんこそ気を付けてね」
そう言ってひらひらと手を振ってオフィスを後にした。
このくらいの時間であれば、もう何度も一人で家に帰っている。
伊神からも迎えにいこうかと連絡が入っていたのだが、そう頼りすぎるのもと思い、断ったのだ。
(私はどうしたらいいんだろう……)
電車に揺られ、そうぼんやりと考える。
はっきりと断る理由も見つけられず、こうして彼との付き合いを続けてしまっている。
彼は紳士だし、玲を気に入ってくれている様子はあるものの、どこかある一線を越えないようにしている気配はあるから、玲もそこに甘えてしまっている。
(悪い人ではない、とは思うけれど……)
彼から向けられる好意らしきものについても、まだ確信は持てない。
そんなふうに悩んだまま、マンションまでの一本道に入ったところだった。
一台の車がゆっくりと玲に近づき、そして止まった。
「玲さん」
突然呼びかけられ、驚いて振り返る。
そして目を見開いた。
「園……なんで」
現れた相手に、玲は本能的に後ずさりした。
結愛に紹介され、何度か会ったことはある。
だがこんなふうに、突然一対一で会いにくるような関係性ではなかったはずだ。
「そんな顔しないでよ。ちょっと、忠告しに来たんだって」
――園池 拓斗。
そこにいたのは、結愛の元夫だった。