冷酷弁護士の溺愛~お見合い相手は、私の許せない男でした~

 身に着けているものは一流、だが、その顔に浮かべるへらへらとした笑顔が、彼の軽薄さを表している。
 だが、以前会った時と比べ、彼にはどこか余裕のない雰囲気があった。

(意味が分からない……!)

 どうしてこの男が、わざわざ玲に会いに来るのだろうか。
 玲は彼に見えないよう、背中に回した手でスマホを操作した。

「玲さん。いや、ちょっと待って、そんな警戒しないでよ」

 目尻を下げてそう言うが、この遅い時間、少ない人通りの場所で、彼の後ろには車。
 怖いに決まっている。

「ほら、結愛とはいろいろあって会えないことになってるからさ。こうやって直接伝えるしかなくって」
「何を……」
「玲さん、伊神弁護士と見合いしたってほんと?」

 玲は目を丸くした。いったいその情報を、どこから得たのだろうか。
 いや、得る可能性はあったとしても、彼にはなんの関係もないはずだ。
 だが次の予想外の言葉が、玲をさらに驚かせた。

「あの男、親父が依頼した時は知らなかったんだけど、結構後ろ暗いとこあるみたいでさ。やめといたほうがいいって忠告しようと思って」
「忠告……?」

(なんで彼が……?)

 玲だって、最初は思っていた。
 信用できない、人の心のない、冷酷な男だと。

 だが今は慎重に彼への印象を見つめ直しているところだし、何より、この男は誰よりも、それを言うに相応しくない。

(どの口でそんなことを……!)

 逆に、伊神の信用度が上がってしまう。
 そう言ってやりたかったが、玲の直感が変に彼を刺激するのはよくないと告げていた。

「ご忠告ありがとうございます、父にも伝えてみます」

 そう言って歩き去ろうとしたが、その瞬間、腕に痛みを感じ、玲は小さく叫んだ。
 拓斗が玲の腕を掴んだのだ。

「……っ、ちょ……!」
「て、ていうかさ、むしろ、あの男から何か聞いてたり、する……?」
「何かって、なんですか!? やめて、離してください!」

 突然触れられたことで、玲は強い恐怖に襲われた。

「いた……っ、何だよ」

 腕を激しく振り払ったことで、拓斗の顔に怒りが沸き上がったのが分かる。

(怖い……!)

 だが、その瞬間だ。

「園池さん。何してるんです」

 それは、玲を今一番安心させてくれる人の声だった。
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