冷酷弁護士の溺愛~お見合い相手は、私の許せない男でした~
玲は深呼吸すると、もう一つ尋ねたかったことを思い切って切り出した。
「私とのお見合いも、何か目的があってのことだったんですか?」
声が震えるのを隠しきれなかった。
自分は今、これから伊神が何を言うかを予測できている。でも、そうではないと言って欲しかった。
伊神は少しためらい、それから口を開いた。
「あの代議士が目的だったよ」
「……っ」
玲は、自分が予想以上にショックを受けていることに驚いた。
彼を疑い、この話がなくなればいいと思っていたのは、自分のほうだったのに。
「じゃあ、私と結婚したいと言ったのも……」
怖くて、自分でその先が紡げない。
だが、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「嘘じゃないよ」
「え?」
「君とは本気で、結婚したいと思ってる」
「……っ」
顔を上げると、真摯な目がこちらを向いていて、玲の顔は一気に熱をもった。
「そんなの、こんな話の流れで、信じられる、わけ……」
「それは困るな」
伊神はこちらへ近づく。
「男として迫って、分かってもらったほうがいい?」
一段低い、男の声だった。
ぞくぞくっ、と玲の背中を何かが這っていく。
「だめ、です……!」
これまでも、彼がどこか鋭い男の目をしたことがあったのには気づいていた。
だが、彼は玲の引いた線から先には踏み込んでこなかった。
でも今はじめて、伊神がはっきりとしたそれを感じさせてくる。
「だめ? そんな顔して?」
どこかうっとりとした顔で伊神が言う。
(こんな、信用のできない……本当のことだって、こんなことになるまで言ってくれない人なのに……!)
「俺のこと嫌いじゃないって、……好きだって顔してる」
「……っ」
「俺の勘違い?」
わからない。首を横に振る玲に、伊神は手を伸ばす。
「そんな、男に付け込まれるような顔、しちゃだめだよ」
掠れた声でそう言い、指で頬を辿られて、顔も身体も燃えるように熱くなった。