冷酷弁護士の溺愛~お見合い相手は、私の許せない男でした~

「だめですよ、ほんとに、だめ……」

 迫る彼から逃れたいのか、その腕に囚われてしまいたいのか、もう自分でも分からない。

「もう俺も、隠す必要がないから」

 ずりずりと後ろに下がり、とうとう背中が壁につく。
 伊神はまだこちらを鋭い男の目で見ている。

「君がそんな隙を見せるなら、遠慮なくいくけど」

 その目が、大人の余裕を失っていた。

「だ、だめ……」
「……キスは?」
「え……?」

 彼を見上げると、とろりとした視線と絡み合った。

「キスだけ。だめ?」
「そ……」

(キスだけで、ほんとに終わるの……?)

 玲はごくりと唾を飲み込み、そして意を決したように言った。
 もう、本能に抗えなかった。

「キスだけ、なら」

 その瞬間。
 噛みつくように、唇を塞がれた。

「あ……っ、ふ」

 導き入れるように簡単に唇を割ってしまい、彼がその隙を見逃すはずがなかった。
 舌を絡めながら、あぁ、と彼が出す息音を聞くと、身体の火照りが止まらなくなる。

(だめ、きもち、よすぎる……)

 玲の身体は蕩けきってしまっていた。
 いつまでも続いて欲しいという口づけに、彼の髪に指を埋めて、ねだるように顔を傾けてしまう。
 伊神の苦しそうな呻き声が聞こえた。

 壁に押し付けられた身体が、ずるずると床に落ちていく。
 その時、駄目だ、と言って顔を上げたのは伊神だった。

「襲いそう」
「……っ」

 掠れた声で首を振る伊神の色気に、玲は何もされていないのに声を出してしまいそうになった。

「君が、魅力的すぎる。……困ったな」
「……っ」

 彼はまだ苦しげな顔のまま笑った。

「俺を受け入れて欲しい……ただ、一緒に闘ってもらわないといけなくなるけど」

 不敵に笑う男の魅力から、玲はもう、逃れられそうになかった。
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