冷酷弁護士の溺愛~お見合い相手は、私の許せない男でした~
何不自由なく育ててもらったことには、心から感謝している。
だが、玲のもともとの真面目な気質もあってか、思春期の頃から抱き始めた自分の置かれた環境への違和感が、実際に社会に出て働いてみて、そして身近で起きたある出来事によって確実なものになった。
自分の周囲が、立場を持っていて経済的に満たされていたとしても、どれだけ世間から遅れていて、汚いものを覆い隠しているかを思い知ったのだ。
結婚、それも政略結婚ならなおのこと、希望など持てるはずがない。
「人は、家柄や立場だけでは決まらないでしょう?」
「お前は分かってない。釣り合わない相手に嫁げば、どれほど苦労するかも知らんくせに」
それはお父さんもでしょう、と喉まで出かかる。
そのピリピリとした雰囲気に耐えかねてか、母が玲、と声をかけた。
「あなた、まだ結愛ちゃんのことを気にしてるのね? 彼女は不憫なことだったけど、時間が解決してくれるわ。あなたがそんなこと言っているうちに、また先を越されちゃうわよ」
玲はもう、母の言葉のどこから突っ込んでいいのか分からなかった。
結婚は早い者勝ちではないし、結愛の傷が早く癒えて欲しいとは思うが、それでも彼女の元夫のことは許せない。彼を庇った人たちのことも。